
確定拠出年金で投資・資産運用を考える人の中には、「投資信託」を活用したいという人も多いと思います。しかし、いざ投資信託での運用を始めようと思っても、手数料がどのタイミングでいくらかかるのか、なかなか分かりにくいのではないでしょうか。
一口に手数料と言っても、投資信託で発生する手数料にはさまざまな種類があります。手数料のことを深く考えずに投資信託を購入すると、場合によっては、手数料コストがかさみ思っていたほどの利益を得られない可能性もあります。きちんと資産運用し、上手に老後資金を確保するためにも、手数料について理解を深める必要があるでしょう。
今回は、投資信託を運用する際にどのような手数料がかかるのかを見ていきます。
1.投資信託の手数料とは
投資信託でかかる主な手数料は、大きく分けると5つあります。
- 購入する際にかかる「購入時手数料」
- 信託財産を保有している間に発生する「信託報酬」
- 信託財産を保有している間に発生する「監査報酬」
- 投資信託の運用にあたり株式や債券等の資産の売買で発生する「売買委託手数料」
- 投資信託を解約する際に発生する「信託財産留保額」
いずれも、販売会社や購入する投資信託によって名称等が異なる場合があります。
2.投資信託の手数料の種類
では、具体的な費用や手数料が発生するタイミングをもう少し詳しくご紹介しましょう。
2.1.購入時手数料
購入時手数料は、投資信託を購入する際に販売会社に対して発生する手数料です。手数料率は販売会社によって異なりますが、購入価格の0~3.0%が一般的とされています。
近年では「ノーロード」と呼ばれる購入時手数料が発生しない投資信託も増えてきました。「ノーロード」のメリットは投資の初期費用が抑えられる点ですが、投資のコストは購入時手数料だけではないため、トータルで考えた際に、必ずしもノーロードだからといって有利というわけではありません。(確定拠出年金では、購入時手数料がかからないケースが一般的です。)
2.2.信託報酬(運用管理費用)
投資信託を保有している間に運用や管理の業務への対価として徴収される手数料です。純資産総額に対して年率で表示されますが、別途支払うのではなく投資信託の財産から日割り計算で日々差し引かれます。例えば、「信託報酬年0.1%」と記載されている場合は保有残高に対して年率0.1%が日割り計算され、1日分の信託報酬が「信託財産」から日々支払われます。
なお、信託報酬は投資信託によって一般的には年0.1%~年2.0%程度です。日経平均株価やTOPIXなどの指数に連動した運用を行うインデックスファンドよりも、指数を上回るリターンを目指すアクティブファンドの手数料が高めに設定されているのが一般的です。
2.3.監査報酬
信託財産を保有している間に発生する手数料です。投資信託は正しく運用されているかを確認するため、決算ごとに監査法人から監査を受ける必要があります。その際の費用が「監査報酬」として信託財産から差し引かれます。
2.4.売買委託手数料
投資信託の運用にあたり株式や債券等の資産の売買で発生する手数料です。投資信託は流入した資金の運用時や、組入資産を入れ替えるために株式や債券の売買を行いますが、投資信託から証券会社に支払う手数料が「信託財産」から差し引かれます。
売買金額は市場の状況や運用方針で変わるため、売買委託手数料に関しては事前には決まっていません。例えば、購入したファンドで頻繁に構成を見直す場合は購入頻度が多くなるため、売買委託手数料は高くなります。
2.5.信託財産留保額
信託財産留保額は、投資信託を解約する際に支払う費用です。運用会社は解約を希望する投資家に対して資産を売却して資金を返却しますが、売却コストを引き続き投資信託を保有する投資家に負担させるのは公平ではありません。そのため、解約する投資家から徴収しています。したがって、販売会社が受取る手数料ではなく、名前の通り信託財産に留保されます。基準価額に対して0.2~0.3%程度が一般的です。
ただし、投資信託によっては信託財産留保額が発生しない商品や購入時にも発生する商品もあります。信託財産留保額がかかるかどうかは、投資信託の目論見書に記載されています。
3.投資信託の手数料の計算方法
投資信託の手数料は計算方法をしっかりと理解していれば、費やす金額をおおよそ算出することができます。ここでは、手数料の種類別に計算方法をご紹介します。
3.1.購入時手数料
投資信託の購入時手数料は、以下の計算式によって概算が可能です。
購入時手数料=申込者の支払総額÷(1+手数料率)×手数料率
申込者の支払総額は、投資信託の約定金額と購入時手数料を加えた金額です。購入時手数料率3.0%(税込)の投資信託を購入し、支払総額が100万円だった場合の購入時手数料は、以下のように計算できます。
{(100万円÷(1+0.03)}×0.03=29,126円
3.2.信託報酬
信託報酬は投資信託ごとに年率何%と料率が定められており、日割り計算で支払われます。信託報酬額を求める計算式は以下のとおりです。
基準価格×(信託報酬率÷365日)
基準価額が10,000円(10000口あたり)で信託報酬率が年2.0%の場合、10,000×(2%÷365日)で0.5円が1日あたりの信託報酬額になります。ただし、基準価格は日々変化しますのでその時の時価を基準に計算されます。
3.3.信託財産留保額
信託財産留保額の計算は、解約するタイミングの基準価額で算出します。解約時の基準価格 が2,000円(10,000口あたり)、信託財産留保額の割合0.3%の場合、発生する信託財産留保額は以下のとおりです。
2,000円×0.3%=6円
解約して受取る金額は10,000口あたり、信託財産留保額の6円を差し引いた1,994円になります。
4.投資信託で手数料以外にかかる費用は?
次に、手数料以外にかかる費用を見ていきます。
4.1.各種税金
投資信託の運用で「売却益」「分配金」「償還差益」などの利益を得られた場合は、株式の譲渡益と同じように利益に対して一定の税金が課されます。課される税率は利益に対して所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%の計20.315%です。 (ただし、確定拠出年金では非課税となります。)
4.2.成功報酬
一部の投資信託では手数料とは別に「成功報酬」が発生するケースがあります。例えば、専門家に銘柄選びや売買・資産の運用や管理をすべて任せる「投資一任契約(ラップサービス)」を結ぶ場合です。(確定拠出年金では、「成功報酬」が発生する商品は一般的ではありません。)
運営管理費用には資産運用残高に一定の比率を掛けた「固定報酬」を毎月支払うタイプのほか、固定報酬に加えて運用成果に応じた「成功報酬」を支払うタイプがあります。成功報酬の割合は投資信託によって異なります。
5.手数料だけで判断しないようにしよう
投資信託で発生する主な手数料と手数料以外にかかる費用についてご紹介しました。売買委託手数料など運用状況で変わるもの以外は、基本的には投資信託の購入時に目論見書などの資料で確認をすることができます。少額の手数料でも、トータルで見ると、思った以上に掛かってしまっていることもあります。手数料についてはしっかりと理解し確認しておきましょう。
※当記事は2021年6月現在の税制・関係法令などに基づき記載しております。今後、税務の取り扱いなどが変わる場合もございますので、記載の内容・数値等は将来にわたって保証されるものではありません。

監修者 井戸 美枝
ライフプランや企業年金・iDeCo、公的保障を得意とする経済エッセイスト。
講演や執筆、テレビ、ラジオ出演などを通じ、生活に身近な経済問題、年金・社会保障問題について解説している。
■資格・会員
・社会保険労務士 兵庫県社会保険労務士会会員
・ファイナンシャル・プランナー(CFP認定者)日本FP協会会員
・一級ファイナンシャル・プランニング技能士
・産業カウンセラー、キャリアコンサルタント、DCプランナー
・発酵マイスター・日本年金学会会員
【オススメ記事】
・確定拠出年金、金融商品にはどのような種類があるの?
・iDeCoを実際に運用してみよう ~保守的ポートフォリオ編~
・iDeCoを実際に運用してみよう 〜積極型ポートフォリオ編〜
・iDeCoで実際に運用してみよう! 〜バランス型ポートフォリオ編〜
・りそな銀行のiDeCoの商品ラインナップにもある「資産分散型」とは