
老後への備えとして「個人年金保険」に加入しているという方も多いが、契約内容や年金の受け取り方によってかかる税金が異なるのをご存じだろうか。今回は、個人年金保険をできるだけお得に受け取るため、おさえておきたいポイントについて説明しよう。
契約内容によって税金の種類が異なる個人年金保険
個人年金保険とは、老後資金のため公的年金とは別に自分で用意する保険商品の1つです。契約時に指定した年齢に達すると、一時金あるいは年金として受け取ることができるというものだ。
年金として受け取る際にかかる税金は、保険料の負担者である「契約者」と「受取人」の関係によって、下表のように課税される税金の種類が異なる。
契約者 | 受取人 | 税金の種類 |
---|---|---|
A | A | 所得税(雑所得) |
A | B | 年金開始時:贈与税 2年目以降:所得税(雑所得) |
例えば、契約者も受取人も夫という場合、受け取る際にかかる税金は所得税(雑所得)となる。一方で、契約者が夫で受け取るのは妻の場合はどうだろう。保険料の負担者である夫から受取人である妻に対して、年金を受け取る権利が贈与されたとみなされるため、年金の受け取り開始時に年金受給権の評価額(年金の権利評価額 ※1)に対して贈与税が課税される。2年目以降は、受け取る年金のうち贈与税の課税対象部分を除いた額(運用益にあたる部分)に雑所得が課税される。贈与税は所得税より税率が高いため、契約を見直すなどの対応をしたほうが良いケースもある。
※1 次の①~③のうち、最も多い金額が年金受給権の評価額として算出される。①解約払戻金の額、②一時金で受け取る場合は一時金の総額、③予定利率にもとづいて算出された金額。
【一括で受け取る場合の税金】
個人年金保険は、一時金として保険料を一括で受け取ることができる商品もある。その場合に課税される税金は下表の通りだ。
契約者 | 受取人 | 税金の種類 |
---|---|---|
A | A | 所得税(一時所得) |
A | B | 贈与税 |
受取額をシミュレーションしてみよう
個人年金保険の一般的な事例として、契約者と受取人が同じ場合に、一括で受け取る場合と年金で受け取る場合で実質受取額がどう異なるのかをシミュレーションしてみよう。契約内容は、60歳で年金の受け取り開始、年金額は60万円(10年間)、一括受取だと560万円、保険料支払総額は560万円の「10年確定年金」とする。計算を単純にするため、運用益や配当金は考慮していない。
(1)一括で受け取る場合
計算式は「総収入金額 - 必要経費 - 50万円(特別控除)= 一時所得」
これに当てはめると、
560万円 - 560万円 - 50万円 = 一時所得0円
となり、税金はかからない。
(2)毎年、年金として受け取る場合
まず、個人年金保険の必要経費を下記のように計算する必要がある。
必要経費の計算式は
「年金額 × 払込保険料合計額 ÷ 年金総支給見込額」
必要経費は、
60万円 × 560万円 ÷ 600万円 = 56万円
となる。
次に雑所得の計算式
「総収入金額 - 必要経費 = 雑所得」
にあてはめると、
60万円 - 56万円 = 4万円となり、雑所得は4万円。
この場合、雑所得が25万円以上だと10.21%の所得税・復興特別所得税が源泉徴収される。源泉徴収されない場合、ほかに所得があれば合算して課税される。
保険金受取額(総額) | 税金(総額) | 実質受取額 | |
---|---|---|---|
年金形式 | 600万円 | 4万円(※2) | 596万円 |
一括 | 560万円 | 0円 | 560万円 |
(※2)所得税率10%として算出(復興特別所得税は考慮せず)
これを見ると、税金面では一括受取の方がおトクだが、年金として受け取る方が受け取りの総額は多くなる。つまり、年金形式で受け取る方がおトクとなるケースが多い。
ただし、公的年金やほかの所得がある場合はやや話が変わってくる。年金で受け取ると所得の総額が増えるため、国民年金保険料や介護保険料、後期高齢者医療保険料などの負担も増える可能性がある。これらを総合して、どちらの受け取り方法が有利かを判断する必要があるだろう。
iDeCoとの相違点
iDeCo(イデコ、個人型確定拠出年金)も、基本的には個人年金保険のように年金または一時金で受け取ることが可能だ。ただし、iDeCo(イデコ)は「自分で積み立てた掛金を60歳以降に自分で受け取る」設計なので、贈与税がかかることはない。また、iDeCo(イデコ)を一時金で受け取る場合には「退職所得」となり、「一時所得」である個人年金保険とは同じ所得税でも種類が異なる。年金形式で受け取る場合はiDeCo(イデコ)も個人年金保険も雑所得だが、iDeCo(イデコ)の場合は公的年金等控除の対象となるのが異なる点だ。
自分にあった受取り方法を
個人年金保険を受け取る場合、年金として受け取れば使いすぎてしまう心配はないため、生活設計がしやすいというメリットがある。実質的な受取総額が多いのも魅力的だ。ただし、家のリフォームや自動車の購入など、老後のライフプランに合わせて一時金で受け取る方法もあるだろう。受け取り方によって、かかる税金や社会保険料負担が変わってくることを踏まえたうえで、自分に合った受け取り方法を選ぶと良いだろう。
※当記事は2019年9月現在の税制・関係法令などに基づき記載しております。今後、税務の取扱いなどが変わる場合もございますので、記載の内容・数値等は将来にわたって保証されるものではありません。
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