2019年に広く世間を賑わした「老後2,000万円問題」。金融審議会の市場ワーキング・グループ報告書に記載された「老後資金は公的年金だけでは約1,300万円~2,000万円が不足する」という内容に驚かれた方も多いのではないでしょうか。
実際、老後にはどれくらいの生活費がかかり、どのくらい貯蓄しておく必要があるのでしょうか?今回は、夫婦2人世帯と単身世帯、それぞれの老後生活費の平均と内訳、資金確保のためのポイントについてご紹介します。
老後にかかる生活費や必要な貯蓄額を知りたいという方はぜひ参考にしてみてください。
1.老後に必要な生活費はいくら?
まず、夫婦二人世帯と単身世帯、それぞれの生活費の平均と内訳を見ていきます。
1.1.夫婦二人世帯の最低日常生活費
生命保険文化センターの令和元年度「生活保障に関する調査」によれば、夫婦2人世帯の場合、老後に必要な最低日常生活費は、月額22万1,000円です。
一方、総務省「家計調査報告(家計収支編)2019年(令和元年)平均結果の概要」によれば、高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上)の消費支出は月平均23万9,947円とされています。
ライフスタイルの違いによって老後に必要な生活費は異なりますが、1つの目安として、毎月22万円~24万円程度が必要となることがわかります。
1.2.夫婦二人世帯のゆとりをもった老後生活費
また「生活保障に関する調査」では、生活を充実させるための費用として最低日常生活費以外に平均で月額14万円が必要と記載されています。つまり、ゆとりのある生活を送るためには、最低生活費の22万1,000円に14万円を加えた、月額36万1,000円が必要になるということです。
同調査によると、老後にゆとりのある生活を送るために上乗せした14万円の使い道は以下の通りです。
- 旅行やレジャー 60.7%
- 趣味や教養 51.1%
- 日常生活費の充実 49.6%
- 身内とのつきあい48.8%
1.3.単身世帯の老後生活費
では、単身世帯の場合はどのぐらいの生活費が必要になるのでしょうか。
総務省発表の「家計調査報告(家計収支編)2019年(令和元年)平均結果の概要」によると、60歳以上の高齢単身無職世帯の実収入の月平均は12万4,710円、このうち可処分所得は月平均11万2,649円でした。
一方の消費支出は月平均で13万9,739円で、消費支出から可処分所得を差し引くと月2万7,090円の赤字になる計算です。
2.老後に必要な生活費の内訳
次に、老後に必要な生活費の内訳を詳しく見ていきます。
2.1.高齢夫婦世帯の場合
総務省「家計調査報告(家計収支編)2019年(令和元年)平均結果の概要」で高齢夫婦の生活費の内訳をみると、27.7%を食費が占めています。次いで「交通・通信費」(11.8%)、さらに教養娯楽費(10.3%)と続きます。
生活費の内訳 | 月平均額(円) | 構成比(%) |
---|---|---|
食料 | 66,458 | 27.7 |
住居 | 13,625 | 5.7 |
光熱・水道 | 19,983 | 8.3 |
家具・家事用品 | 10,100 | 4.2 |
被服及び履物 | 6,065 | 2.5 | 保健医療 | 15,759 | 6.6 |
交通・通信 | 28,328 | 11.8 |
教育 | 20 | 0.0 |
教養娯楽 | 24,804 | 10.3 |
諸雑費 | 20,845 | 8.7 |
2.2.高齢単身世帯の場合
一方で60歳以上の高齢単身無職世帯の支出の内訳をみると、25.7%を食費が占めており、高齢夫婦と同じくもっとも比率が高くなっています。次いで教養娯楽費(11.8%)、交際費(10.9%)と続きます。また、高齢夫婦無職世帯と比較して住居費の割合が9.2%と高いのが特徴です。
生活費の内訳 | 月平均額(円) | 構成比(%) |
---|---|---|
食料 | 35,883 | 25.7 |
住居 | 12,916 | 9.2 |
光熱・水道 | 13,055 | 9.3 |
家具・家事用品 | 5,681 | 4.1 |
被服及び履物 | 3,659 | 2.6 |
保健医療 | 8,445 | 6.0 |
交通・通信 | 13,117 | 9.4 |
教育 | 47 | 0.0 |
教養娯楽 | 46,547 | 11.8 |
諸雑費 | 14,366 | 10.3 |
交際費 | 15,258 | 10.9 |
仕送り金 | 569 | 0.4 |
3.老後生活費はどのように計算する?
老後生活費は、毎月の生活費と平均余命から算出できます。必要となる老後生活費を計算してみましょう。
厚生労働省の「令和元年簡易生命表の概況」によれば、男性の平均寿命は81.41歳、女性の平均寿命は87.45歳で、男女合わせた平均寿命は84.43歳です。
高年齢者雇用安定法第9条によって「65歳までの定年の引き上げ」「65歳までの継続雇用制度の導入」「定年の廃止」のいずれかの措置を実施する義務が企業側に課されています。老後の始まりを65歳とした場合、65歳から84.43歳までの約19年間に必要な金額が老後生活費ということになります。夫婦2人世帯の生活費は以下の通りです。
22万1,000円×12ヶ月×19年=5,038万8,000円
ゆとりのある生活を送りたい場合は月額36万1,000円必要となるため、以下のようになります。
36万1,000円×12ヶ月×19年=8,230万8,000円
ゆとりのある生活を19年に渡って続ける場合、平均で8,000万円を超える金額が必要となる計算になります。
4.老後必要になる医療費・介護費用
年齢を重ねればケガや病気の治療にかかる費用も増えていきます。そのため、医療や介護に関する費用をしっかりと確保する必要があります。
4.1.医療費
厚生労働省「医療保険に関する基礎資料」によれば、65歳から74歳で必要になる医療費の平均は494万円です。自己負担3割で計算すると148万2,000円が必要になります。
一方、75歳以上の生涯医療費は1,083万円であり、後期高齢者医療制度の一割負担が適用された場合の自己負担額は108万3,000円となります。
4.2.介護費用
介護サービスを利用したり、在宅での介護のために自宅をリフォームする場合もあります。
生命保険文化センター「平成30年 生命保険に関する全国実態調査」によれば、在宅介護のための住宅改修費や介護ベッド購入などの一時費用でかかった金額の平均は69万円です。また毎月の費用として、平均で7万8000円必要です。介護を行った期間の、平均介護期間は4年7ヶ月となっています。
高額介護サービス費制度によって上限を超えた介護費用は払い戻しが行われるものの、所得に応じて15,000円から44,400円が、一月の上限です。自己負担は、サービスに対して1割から3割を負担します。
5.老後の生活費を確保するには?
ゆとりのある老後生活を送るには、年金だけでは心もとないと思う方もいらっしゃると思います。
事実、年金の平均受給額を見てみると、国民年金のみの平均支給月額は約5万6,000円、厚生年金(国民年金を含む)の平均年金月額は65歳以上の男性で約17万1,000円、65歳以上の女性で約10万9,000円です。公的年金だけでは老後の生活費をカバーするのが難しいことがわかります。
だからこそ、充実した老後のために若いうちから老後資金について考えておくことが大事です。
では、どうすれば老後の生活費を確保できるのでしょうか。
5.1.老後も働く
老後の収支が赤字になる原因の1つは、定年退職を迎えることで定期的な給与収入がなくなることです。収入の減少を補うためには、退職後も再雇用制度などを活用して働くことが選択肢の1つとなります。
これまでも65歳以降の人が働きやすいよう法整備が進んできましたが、2021年4月から施行された「改正高齢者雇用安定法」では、70歳まで雇用を延長することが企業の努力義務として定められています。
5.2.退職金を確認しておく
厚生労働省「平成30年 就労条件総合調査」の「退職給付(一時金・年金)の支給実態」によれば、退職金制度がある会社の割合は80.5%です。5社に1社はそもそも退職金制度が導入されていません。
では退職金制度があった場合、金額の目安はいくらでしょうか。大学・大学院卒で勤続20年以上かつ45歳以上の定年退職者の退職金の推移は以下のとおりです。
- 2003年(平成15年)=2,499万円
- 2008年(平成20年)=2,323万円
- 2013年(平成25年)=1,941万円
- 2018年(平成30年)=1,788万円
このデータをみると、徐々に退職金の水準が下がっていることがわかります。これはあくまで平均の数値ですので、ご自身が受取れる退職金がいくらなのか確認しておきましょう。
5.3.早期から資産運用を検討する
再雇用制度の活用や退職金でも必要な老後資金を準備できない可能性があるので、若いうちからはじめ、長期間で資産運用し効率的に貯蓄を増やしておきたいところです。
利用を検討したい制度として挙げられるのが個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」です。毎月の掛金を自分自身で運用しながら積立てていき、原則60歳以降に受取るしくみとなっています。毎月いくら積立てるか、どのように運用するか、どのように受取るか、すべて自分自身で決めることができる制度です。
「積立てた掛金の全額が所得控除になる」「運用益が全額非課税になる」「受取り時の税負担が軽減される」といった税制メリットがあるため、将来の資産形成を考えている方に適しています。
個人型確定拠出年金 iDeCo(イデコ)について詳しくは下記ページをご覧ください。
個人型確定拠出年金 iDeCo(イデコ)について
6.老後を見据え資金確保を
老後の生活費は夫婦二人世帯で約5,000万円、介護や医療、ゆとりのある生活までカバーしようとすると8,000万円を超える金額が必要になる可能性があります。一方の収入は「公的年金」「65歳以降の給与収入」「退職金」などが考えられますが、老後の生活費をどれだけカバーできるかを把握し、「現役時代の貯蓄(iDeCoなど)」で早くから対策をして、将来に備えておきましょう。
※当記事は2021年6月現在の税制・関係法令などに基づき記載しております。今後、税務の取扱いなどが変わる場合もございますので、記載の内容・数値等は将来にわたって保証されるものではありません。

監修者 井戸 美枝
ライフプランや企業年金・iDeCo、公的保障を得意とする経済エッセイスト。
講演や執筆、テレビ、ラジオ出演などを通じ、生活に身近な経済問題、年金・社会保障問題について解説している。
■資格・会員
・社会保険労務士 兵庫県社会保険労務士会会員
・ファイナンシャル・プランナー(CFP認定者)日本FP協会会員
・一級ファイナンシャル・プランニング技能士
・産業カウンセラー、キャリアコンサルタント、DCプランナー
・発酵マイスター・日本年金学会会員