
遠い未来のことだと思っていても、老後は誰にでも訪れます。その時になって後悔しないよう、今のうちから考え、準備しておきたいものです。
「老後が不安」という方は多いと思いますが、ここでは具体的にどのような不安要素があるのか、また不安を減らすためにできることについて考えていきます。
一般的な老後の不安意識
公益財団法人生命保険文化センターの「令和元年度生活保障に関する調査」によると、自身の老後生活について「不安あり」と回答した人の割合は84.4%となっており、8割以上の方が老後生活に対して不安を抱えているという結果になっています。このうち「非常に不安を感じる」と答えた人の割合は19.0%にも上ります。
また、男女別では男性が81.9%、女性86.4%と、いずれの性別も80%を超えていますが、女性のほうが4.5ポイント高いのが特徴です。
具体的に何を不安に感じるのかは人によってさまざまですが、大きく分けると「経済面」「健康面」「社会面」の3つの不安要素が考えられます。
老後の3大不安要素
では、その3つの不安要素「経済面」「健康面」「社会面」について、順番に解説していきましょう。
経済面の不安
多くの人がまず不安に感じるのがお金の問題です。人生100年時代と言われていますが、長く生きれば生きるほどお金がかかります。「退職金や年金だけで安心して暮らせるのか?」「貯金はどのくらいあればいいのか?」といった不安もあると思います。
また、賃貸住宅に住んでいれば家賃がかかり、持ち家でも住宅ローンが残っていたり、リフォームが必要になったりすることもあるでしょう。
健康面の不安
今は健康に自信がある人でも、年齢を重ねていくと、体に不具合が出てくるようになります。筋力や体力が低下して、寝たきりになったり、介護が必要になったりするのではないかという不安もあるでしょう。また、最近では認知症への不安も高まっています。
病気をして医療費や介護費がかかるようになると、家計が圧迫されて生活が困窮することもあります。健康面の不安は、経済面の不安と密接につながっているのです。
社会面の不安
核家族の多い現代社会では、孤独な老後を過ごすことに対する不安もあるでしょう。定年退職をして会社に行かなくなると、急に社会とのつながりがなくなることで、生きがいを失ってしまう人もいます。子どものいない夫婦の場合、配偶者に先立たれて独居老人となり、孤独死を迎えるのではないかという不安もあるかもしれません。
今後の生活イメージを明確化することが大事
30~40代は会社のなかでの地位が徐々に高くなり、年収が右肩上がりに増加していく時期です。一方、50歳台になると役職定年などによって年収がダウンし、今までのように貯蓄ができないケースが考えられます。しっかりとした退職金制度を設けられている会社でなかった場合、長い老後生活で徐々に貯蓄が少なくなり、最終的に老後破産を起こす可能性も否定できません。
そうした未来を避けるためにも、30代や40代のうちから老後の生活について明確なイメージを持っておくことが大切です。50代以降の収入減少や退職金、年金収入なども考慮してシミュレーションを行うことで、老後資金が不足する場合に穴埋めする行動も自然と明確化されます。
老後に2,000万円は本当に必要?自分の資産状況を予測するには
2019年に金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」が「老後には2,000万円必要」と報告したことが話題になりましたが、実際に老後資金はどのくらい必要なのでしょうか。
老後のために必要な貯蓄額は、「老後の支出」から「老後に得られる収入」を差し引くことで算出できます。具体的に見ていきましょう。
老後の収入を把握する
定年後の主な収入となるのは公的年金です。厚生労働省年金局が発表した「令和元年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、令和元年度の厚生年金加入者の平均給付額は月額約14万6,000円、国民年金加入者の場合は月額約5万6,000円です。
たとえば、退職金2,000万円と厚生年金の平均額をもらう夫と、国民年金の平均額を受取る専業主婦の妻の家庭の場合、老後の収入は以下のようになります。
【夫の収入(65歳から90歳まで25年間年金を受取る場合)】
14万6,000円×12ヵ月×25年=4,380万円
4,380万円+2,000万円=6,380万円
【妻の収入(65歳から90歳まで25年間年金を受取る場合)】
5万6,000円×12ヵ月×25年=1,680万円
【合計】
6,380万円+1,680万円=8,060万円
その他、企業年金や個人年金保険など、公的年金以外に受取れるお金がある人は計算してみましょう。
老後の支出を把握する
総務省の家計調査報告(2021)によると、夫65歳、妻60歳以上の夫婦のみ無職高齢者夫婦の1ヵ月あたり消費支出の平均額は約26万円です。老後を60歳から90歳と仮定すると、30年で9,360万円かかることになります。
支出の内訳
消費支出約26万円の内訳を見てみると、以下のとおりになります。
品目分類 | 金額(円) | 適用 |
---|---|---|
食料 | 76,092 | 野菜、海藻、魚介類など |
住居 | 19,127 | 家賃地代 |
光熱・水道 | 18,747 | 電気代、上下水道代など |
家具・家事用品 | 13,065 | 家庭用耐久財。家事雑貨など |
被服及び履物 | 9,188 | 洋服、シャツ、セーター類など |
保険医療 | 14,879 | 保健医療サービス |
交通・通信 | 34,910 | 自動車等関係費、交通 |
教育 | 7,854 | 授業料等、補習教育 |
教養娯楽 | 23,787 | 教養娯楽用品、教養娯楽用耐久財など |
その他消費支出 | 42,636 | 諸雑費 |
老後の不足資金を把握する
上記で算出した老後の合計収入額から老後の生活費を引くことで、老後の不足資金を把握できます。計算結果がプラスであれば、老後資金について必要以上に心配することはありません。しかし、マイナスであれば老後資金が足りないことになりますので、定年を迎えるまでに不足額を補うための対策が必要です。
8,030万円-9,360万円=-1,330万円
上の例の場合は、約1,330万円不足していることがわかります。
公的年金は、職業や収入によって異なります。ねんきん定期便などで確認しておりましょう。また、総務省のデータは生活費にかかるお金のみなので、できれば高齢期にかかる医療や介護の費用なども合わせて考えておくと安心です。
老後の経済的な不安を減らすために今からできる5つのこと
老後資金を十分貯めることができていない場合は、以下の4つのポイントを押さえて対策をしていきましょう。
収入を増やす
不足する老後の生活費を埋める方法としてもっともオーソドックスなのは収入を増やすことです。「社内での昇給を狙う」「転職して高年収の企業に入社する」という方法もありますが、いずれも自分の能力だけで達成できるものではありません。
たとえば以下のような方法であれば、誰でも収入を増やすことが可能です。
- 定年後も働く
- 年金を繰り下げ受給する
- 副業を始める
定年退職後も再雇用制度を使って働くことも選択肢の1つです。もとの会社から離れてシルバー人材センターに登録することもできます。厚生年金に長く加入することがポイントです。
年金を繰下げ受給することで、繰下げた月数に応じて受給額を増やすこともできます。繰り下げた月数×0.7%分が増額され、70歳まで繰り下げると42%まで増額が可能です。
また、最近は副業を認める会社も増えているので、趣味や得意なことを副業としてやってみるのも手段の1つです。上手くいけば収入を増やすことができるでしょう。
支出を減らす
支出を減らすことで残るお金が増えれば、収入を増やすのと同様に老後資金を増やすことにつながります。
ただし、無理な節約はストレスの原因になり、長続きしません。まずは固定費の削減から考えてみましょう。食費などの変動費の場合、頑張って減らしてもその場限りの節約になってしまいますが、毎月一定額を支払っている固定費を見直せば、その後ずっと節約が続きます。
固定費として代表的な支出は以下のようなものです。
- スマートフォンや携帯電話の料金
- 生命保険や医療保険の保険料
- 毎月の習い事や月額料金制の遊興費
たとえば大手キャリアのスマートフォンや携帯電話を使っている方は、格安スマホや格安SIMに切り替えるだけで大幅に通信料の削減が可能です。また大手キャリアでも格安プランを設定しているところもあります。最適なプランを探してみましょう。
生命保険・医療保険も同様に固定費として節約が可能です。一般的に子どもが独立すれば、万が一の際に必要な保険金額も少なくなります。家族構成や状況などに合わせて保障内容を見直すことで固定費の削減につながります。
そのほか、ガス会社や電力会社に関しても、自由化が進んだことで料金が安い会社に変更することが可能です。ポイント制度なども比較し、もっともお得に利用できる会社を検討しましょう。
資産を保有する
収入を増やしたり支出を減らしたりして得たお金は、別のことに使う前にまずは積立貯蓄に充てるのがセオリーです。余分なお金ができてもその場限りの娯楽に使わず、老後の資金を確保するための資産運用の元手として貯蓄しましょう。
一般的に、資産運用は元手が大きい方が有利となります。100万円を資産運用して株価が1%値上がりすれば1万円の利益となりますが、元手が1,000万円なら同じ1%の値上がりでも10万円の利益になります。
また、前項で紹介した老後の支出金額では介護や医療などの面は考慮されていません。年齢を重ねるほど病気に罹患する可能性は高くなりますから、少しでも多くの貯蓄を準備したいところです。
今まで紹介した方法以外にも、たとえば持ち家があれば、リバースモーゲージを利用して金融機関からお金を借りることもできます。本人が死亡した時点で自宅を売却して返済する代わり、老後も自宅で過ごしながらお金を借りられます。
また、契約した時期にもよりますが、貯蓄性の高い保険を契約することで資産にすることも可能です。たとえば養老保険などは、満期まで契約すれば満期保険金、期間中に死亡した場合は死亡保険金、途中で解約した場合には解約返戻金を受取れるので、貯蓄性の高い保険として知られています。
資産運用を行う
老後資金は多いに越したことはありません。ある程度の貯蓄ができたら、無理のない範囲で少しずつ資産運用をしてもいいでしょう。老後に向けた資産形成なら、iDeCo(個人型確定拠出年金)など税制メリットがある制度を上手く活用すると効率的です。
iDeCo(イデコ)は老後資金を作るための私的年金制度で、以下のような3つの税制メリットがあります。
- 掛金の全額所得控除
- 運用益は非課税
- 年金受取時の税金が優遇
なかでも特に税制メリットが大きいのは所得控除です。所得税の税率は課税所得額に応じて段階的に決められていて、所得控除が増えることで課税所得額が減るだけでなく、税率も下がる可能性があります。税負担軽減の効果がさらに大きくなることも期待できます。
老後も働ける体力づくり
いくらお金があっても、病気になったり寝たきりになったりしては何もできません。健康寿命を延ばすことで、定年退職後も労働収入を得ることができます。健康を維持するために、現役のうちから自己管理をしっかり行い、体力をつけておくようにしましょう。
栄養の偏りや運動不足は、成人病リスクを高める可能性があります。バランスの良い食事、適度の運動、規則正しい生活に留意し、定期的な健康診断も欠かさず受けるようにしましょう。
友人・趣味は持っておくが吉
老人の孤独死が増えている昨今、人との交流は大切です。一人暮らしでも、仲の良い友人がいれば話し相手になったり、お互いに助け合ったりすることもできます。ボランティアや地域の活動に参加すると、友人ができやすいです。また、生活資金や資産管理に不安がある人は、FP(ファイナンシャルプランナー)など気軽に相談できる相手を見つけておくと安心です。
老後も続けられる趣味を持っておくのもいいでしょう。生きがいになりますし、収入につながるかもしれません。
豊かで安心な老後のために今から準備を
今回は、漠然とした老後不安を解消するために、老後の収入と支出を具体化する方法を解説しました。
具体的な金額として老後の生活資金を計算すれば、漠然とした不安を可視化し、老後までの資金作りの道筋を作ることができるはずです。収入を増やしたり支出を減らしたりして得た余剰資金はできる限り貯蓄に回し、資産運用の原資として活用しましょう。
人生100年時代を元気で生き抜くために、今のうちからできる対策を始めることをおすすめします。
※当記事は2021年12月現在の税制・関係法令などに基づき記載しております。今後、税務の取り扱いなどが変わる場合もございますので、記載の内容・数値等は将来にわたって保証されるものではありません。
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