
企業型確定拠出年金(企業型DC)は、企業が掛金を拠出し、その企業に勤める従業員が自ら資産運用を行う。そのため、転職や退職の際は、一定の手続きが必要である。しかし、転職や退職でバタバタしている時は、DCの資産に係る手続は特に見落とされがちだ。今回は、転職の際に、加入していた企業型DCの手続きを忘れるとどうなるかを解説する。
転職の際に忘れがちになる自分の年金資産
転職とは、単純に職場を変更するだけではない。もともとの職場から自分の荷物などをすべて引き払い、退職の手続きを済ませなければならない。新しい職場で働くためにしなければならない手続きがたくさんあるため、どうしても慌ただしくなりがちだ。
健康保険や雇用保険の手続きなど、さまざまな書類を提出しなければならないうえに手続きも煩雑だ。近年は、IT環境の普及によりそうした手続きも電子化が進んでいるものの、まだまだ手続きは簡単ではない。こうしたことから、誰からも手続きを急ぐように迫られることがない確定拠出年金では、つい手続きが忘れられがちになる傾向がある。
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企業型DCがない企業への転職で手続きを放置すると?
転職先に企業型DCがある場合、転職先の企業で必然的に手続きが行われるため、手続きが忘れられることはほとんどないと考えられる。これに対して、企業型DCがない企業へ転職した場合、手続きを放置してしまうとどうなるのだろうか。
企業型DCのある企業を退職して企業型DCの加入資格を失った場合、手続きとしては、資格喪失日の翌月から6ヵ月以内に他の企業型DCに加入するか、個人型確定拠出年金(iDeCo・イデコ)に移換するか、(条件を満たせば)脱退一時金を請求するかのいずれかを選択する必要がある。
上記の手続きを忘れてしまうと、「自動移換」が行われる。自動移換とは、所有していた企業型DCの資産が現金化され、国民年金基金連合会に自動的に移換されることを言う。
DC資産が自動移換されてしまうと、次のようなデメリットがある。もともとDCは、運用収益が非課税になることがメリットだ。しかし、自動移換とともに現金化されてしまうと、現金のまま放置されてしまい、運用されることはない。本来、このDC資産をiDeCoに移換するなりすれば、さまざまな運用商品で有効に運用することが可能なことを考えると、非常にもったいない状態となる。
また、DCでは60歳に達すると給付を受けることができるが、自動移換されたままでは、給付を受けることができない。この場合、iDeCoに資産移換の手続きをしてから給付手続きをすることになるため、手続きを忘れると給付までに時間がかかってしまうことになる。
そして、最も問題なのが、自動移換されている期間は、「通算加入者等期間」に算入されないことである。DCでは、通算加入者等期間が10年以上でないと、60歳から給付を受けることができない。通算加入者等期間が10年に満たない場合は、受給開始年齢がそのぶん遅くなってしまう。例えば、8年以上ならば61歳、6年以上8年未満の場合は62歳となる。自動移換の期間が長ければ長いほど、そのぶん受給開始が遅くなる可能性がある。
また、自動移換される際の手数料として4,269円かかる。さらに、自動移換された資産からは、管理手数料が毎月51円自動的に引き落とされる。資産運用をしていれば、多少の管理手数料が引かれたとしても運用益でカバーすることも可能だが、自動移換されたままでは運用することができないため、資産は単純に目減りしていくことになる。
自動移換はデメリットが大きい
以上、手続きを忘れて自動移換されてしまうと、大きなデメリットが生じることがお分かりいただけただろうか。企業型DCもiDeCoも、掛金を積み立てながら資産運用することによって、さまざまな税制メリットを享受することができる。転職時は何かと慌ただしいが、資格喪失日の翌月から6ヵ月の期間があるため、落ち着いたらきちんと手続きをしておきたいところだ。
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